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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)774号 判決

控訴人兼被控訴人(第一審原告、以下「第一審原告」という。) 高元商事株式会社

右代表者代表取締役 高橋初枝

右訴訟代理人弁護士 宮﨑富哉

第一審原告補助参加人 中野源之助

右訴訟代理人弁護士 坂巻幸次

同 石井久雄

同 石河秀夫

第一審原告補助参加人 三松商事株式会社

右代表者代表取締役 松島勇次郎

右訴訟代理人弁護士 小林芳郎

控訴人兼被控訴人(第一審被告、以下「第一審被告」という。)

亡中村純訴訟承継人 中村ミサ子

〈ほか三名〉

被控訴人(第一審被告) 株式会社国林商事

右代表者清算人 飯島徳太郎

〈ほか一名〉

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士 大石德男

同 道本幸伸

主文

一  第一審原告及び第一審被告亡中村純訴訟承継人らの各控訴を棄却する。

ただし、原判決主文第一項を次のとおり変更する。

第一審被告亡中村純訴訟承継人中村ミサ子、同中村茂雄、同中村勝治、同中村はるみは、第一審原告に対し、別紙物件目録記載の持分につき、別紙登記目録一記載の登記の抹消登記手続をせよ。

二  控訴費用は、第一審原告と第一審被告亡中村純訴訟承継人らとの間では第一審被告亡中村純訴訟承継人らの負担とし、第一審原告と被控訴人らとの間では第一審原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  第一審原告

1  原判決中第一審原告敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人株式会社国林商事は、第一審原告に対し、別紙物件目録記載の持分につき別紙登記目録二記載の登記の抹消登記手続をせよ。

3  被控訴人国本節子は、第一審原告に対し、別紙物件目録記載の持分につき別紙登記目録三記載の登記の抹消登記手続をせよ。

4  第一審被告亡中村純訴訟承継人らの控訴を棄却する

ただし、原判決主文第一項を次のとおり変更する。

第一審被告亡中村純訴訟承継人中村ミサ子、同中村茂雄、同中村勝治、同中村はるみは、第一審原告に対し、別紙物件目録記載の持分につき、別紙登記目録一記載の登記の抹消登記手続をせよ。

5  訴訟費用は、第一、第二審とも第一審被告亡中村純訴訟承継人ら及び被控訴人らの負担とする。

二  第一審被告亡中村純訴訟承継人ら

1  原判決中第一審被告亡中村純敗訴の部分を取り消す。

2  第一審原告の第一審被告亡中村純訴訟承継人らに対する請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも第一審原告の負担とする。

三  被控訴人ら

第一審原告の控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一  第一審原告の請求の原因

1  第一審原告は、第一審被告亡中村純(以下「第一審被告中村」という。)の仲介により、昭和五四年三月三〇日、第一審原告補助参加人中野源之助(以下「補助参加人中野」という。)との間で、同人から同人所有にかかる埼玉県越谷市大字瓦曽根字富士一二〇五番田六七四・三八平方メートル(その後、昭和五五年九月一日所在地番が埼玉県越谷市南越谷四丁目二四番七と変更され、同日土地区画整理法による換地処分によりその面積は、四四七・二四平方メートルとなった。以下「本件土地」という。)を代金六七七〇万円で買い受ける旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、右契約時に手付金一〇〇〇万円及び売買代金(裏金)一〇〇〇万円を支払った。

そして、同年八月二四日補助参加人中野による農地法四条の農地転用届が受理され、本件土地の地目は同年九月一八日に田から宅地に変更になったので、同時に、第一審原告は、本件土地の所有権を取得した。なお、右売買の契約書には、中間金二〇〇〇万円を支払うこと、市街化区域内にある本件土地の(農地法五条による)農地転用届出の受理等がされ次第残金を支払うこと、この残金支払いにより所有権が移転する旨の記載があるが、所有権移転に関する部分は、いわゆる例文であって、法的拘束力がない。

2  仮に右の記載中所有権移転に関する部分が例文ではないとしても、第一審原告は、中山清(以下「中山」という。)に対し、「高元商事株式会社不動産部中山清」という名刺の使用を認めることなどにより、第三者に対し中山に第一審原告を代理して不動産取引をする権限を授与した旨の表示をしたところ、第一審原告の表見代理人(民法一〇九条)中山は、補助参加人中野との間で、昭和五四年八月一〇日頃本件売買契約を合意解除し、改めて本件土地のうち別紙物件目録記載の持分(以下「本件持分」という。)を、本件売買契約の手付金及び代金としてそれまでに支払済みの三〇〇〇万円で買い受ける旨の契約をした(以下「本件持分売買契約」という。)。

そして、同年八月二四日補助参加人中野による農地法四条の農地転用届出が受理され、本件土地の地目は同年九月一八日に田から宅地に変更になったので、同時に、第一審原告は、本件持分権を取得した。

3  本件持分について、第一審被告中村は、別紙登記目録記載一の登記(以下「本件一の登記」という。)を、被控訴人株式会社国林商事(以下「被控訴人会社」という。)は、同目録二記載の登記(以下「本件二の登記」という。)を、被控訴人国本節子(以下「被控訴人国本」という。)は、同目録三記載の登記(以下「本件三の登記」という。)を経由している。

4  第一審被告中村は、昭和六二年三月一日死亡し、同人の妻中村ミサ子、同人の子中村茂雄、中村勝治、中村はるみが同人を相続した。

5  よって、第一審原告は、本件土地所有権あるいは本件持分権に基づいて、第一審被告中村訴訟承継人らに対し本件一の登記の、被控訴人会社に対し本件二の登記の、被控訴人国本に対し本件三の登記の各抹消登記手続をすることを求める。

二  第一審原告補助参加人らの右に関する主張

本件売買契約の締結には、売主側の仲介人として第一審原告補助参加人三松商事株式会社(以下「補助参加人三松商事」という。代表者松島勇次郎、以下「松島」という。)が立ち会った。第一審原告の不動産部門の社員でその不動産取引について第一審原告を代理する権限を有していた中山は、昭和五四年八月一〇日頃、売主である補助参加人中野との間で、本件売買契約を合意解除し、本件持分売買契約を締結した。

三  請求の原因等に対する認否

1  第一審被告中村訴訟承継人ら

(一) 請求の原因1のうち、第一審原告が第一審被告中村を仲介人として補助参加人中野との間で本件売買契約を締結したこと、その売買契約書に第一審原告主張の記載があることは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 同2のうち、第一審原告が中山に対しその主張の名刺の使用を許していたこと、第一審原告の主張の頃、本件土地の農地転用届出が受理され、本件土地の地目が田から宅地に変更になったことは認めるが、その余は否認ないし争う。

(三) 同3及び4の事実は認める。

(四) 同5は争う。

(五) 補助参加人らの主張事実のうち、中山が第一審原告の代理人であったことは認め、その余は争う。

2  被控訴人ら

(一) 請求の原因事実のうち、本件売買契約が締結されたこと、本件持分について第一審原告主張の各登記のあることは認めるが、その余は否認ないし争う。

第一審原告は、本件売買契約について、その売買代金残金を支払っていないから、本件土地の所有権を取得しえない。

(二) 補助参加人らの主張事実のうち、中山が第一審原告の代理人であったことは認め、その余は否認ないし争う。

四  抗弁

1  第一審被告中村訴訟承継人ら

(一) 第一審被告中村は、第一審原告の代理人中山から、本件土地全部を第一審原告が買ったことにすると売主の補助参加人中野に多額の税金がかかるので、本件持分は第一審被告中村が買ったように仮装して欲しいといわれて、補助参加人中野の了解のもとに本件一の登記を受けた。

第一審原告は、中山に右について代理権を授与していた。

(二) その後、第一審被告中村は、第一審原告の代理人中山から、第一審原告が被控訴人会社から借り受けた三〇〇〇万円の担保とするため、被控訴人会社に対して本件二の登記をするよう指図されて、右登記をした。

仮に中山に右に関する代理権がなかったとしても、第一審原告は、中山に前項の代理権を授与していたところ、同人は、第一審原告の従業員であり、本件土地の売買に関しても第一審原告の代理人として行動していたから、第一審被告中村が中山に右代理権ありと信じたことには、民法一一〇条の正当な理由がある。

(三) よって、第一審被告中村は、第一審原告が右三〇〇〇万円を弁済するまでは、本件一の登記の抹消登記義務を負わない。

2  被控訴人ら

(一)(1) 補助参加人中野及びその代理人であった補助参加人三松商事或いは松島は、本件土地の売買に関して発生する譲渡所得税を軽減するため、これを昭和五四年と同五五年の二回に分けて売ったようにすることとしたが、二年続けて第一審原告に売ったことにしたのでは税務署から脱法行為とみられると考え、右売買の仲介人の第一審被告中村と通謀のうえ、昭和五四年の分として本件持分を第一審被告中村に売ったように仮装することとして、本件一の登記をした。

補助参加人中野は、本件土地の売買について、その登記名義の移転、譲渡所得税の回避の処理を含め、補助参加人三松商事あるいは松島に対して、代理権を授与していた。

(2) 被控訴人会社は、右登記を信頼して、昭和五四年一二月二七日第一審被告中村から本件持分を代金二六四〇万円で買い受け、本件二の登記を受けた善意の第三者である。

そうすると、補助参加人中野と被控訴人会社との間では、民法九四条二項が適用され、補助参加人中野は本件一の登記が仮装であることを被控訴人会社に対抗できないから、その結果、被控訴人会社は本件持分を適法に取得したことになる。

(3) そして、補助参加人中野の特定承継人である第一審原告と被控訴人会社との間では、民法一七七条が適用されるから、第一審原告は、先に右持分について本件二の登記を経由した被控訴人会社に対しては、右持分の限度で本件土地の取得を対抗することができない。

(二)(1) 本件土地の買主である第一審原告の不動産部門の社員でその代理人の中山は、右(一)項(1)の理由から、売主である補助参加人中野やその代理人の補助参加人三松商事あるいは松島及び第一審被告中村との三者間の話合いにより、第一審原告が補助参加人中野から買い受けた本件土地のうち本件持分を同補助参加人から第一審被告中村に仮装登記することを承認し、その結果、本件一の登記がされたものであるから、民法九四条二項の類推適用により、第一審原告は、第一審被告中村から本件持分を買い受けた善意の第三者である被控訴人会社に対し、第一審被告中村が本件持分を取得しなかったことをもって対抗することができない。

(2) 第一審原告は、中山に右のような登記名義の移転を含め、本件土地の売買について代理権を授与していた。

(3) 仮に中山に右の代理権はなかったとしても、少なくとも、中山は本件持分の売買について第一審原告の表見代理人であり、第一審原告は中山に対し、その不動産部の社員である旨の名刺の使用を許すなどしていたから、第一審原告は、表見代理(民法一〇九条)の法理により、中山の右行為について責任を負うべきである。

(4) 仮に中山の右行為について表見代理が成立しないとしても、中山は第一審原告の使者として本件売買契約の締結及びその後の処理に関与した以上、同人の関与により作出された本件一の登記を信頼した被控訴人会社は、信義則上保護されるべきである。

(三) そして、右(二)の理は、仮に右の話合いに第一審原告が関与していなかったとしても同様であり、登記名義人たる補助参加人中野の意思で第一審被告中村に虚偽の登記がされた場合、これを信頼して取引した被控訴人会社は、信義則上保護されるべきである。

(四) 被控訴人国本は、昭和五五年四月二三日被控訴人会社から本件持分を代金二六四〇万円で買い受けた。

五  抗弁に対する認否

1  第一審原告

(一) 抗弁1の事実のうち、第一審被告中村が、中山から本件持分を売買したように仮装して欲しいといわれ、補助参加人中野から権限を授与された代理人である三松商事あるいは松島の了解のもとに、本件一の登記を受けたことは認め、その余の事実は否認し争う。

中山は、第一審原告の権限ある代理人ではない。

(二) 同2の(一)の(1)の事実中、本件一の登記が補助参加人中野から権限を授与された代理人である三松商事あるいは松島と第一審被告中村との合意によってされたことは認め、その余は否認し、(2)の前段の事実は不知、(3)は争う。

(三) 同2の(二)及び(三)の事実は否認し争う。

ただし、中山と第一審被告中村とが両者間の話合いによって本件一の登記をすることにしたこと、その後、第一審被告中村が補助参加人中野から権限を授与された代理人である三松商事あるいは松島との合意によって本件一の登記を受けたことは認める。

(四) 同2の(四)の事実は不知。

(五) 中山は、第一審原告の社員ではなく、第一審原告は、同人に対し本件土地の売買について代理権を授与したことはない。

本件一の登記は、第一審被告中村と中山が金欲しさから共謀のうえ、本件持分を利用して一時他から金融を得る目的で、第一審原告に無断でしたものであり、第一審原告の承認に基づくものではないから、たとえ、被控訴人会社が本件一の登記を信頼して第一審被告中村から本件持分の譲渡を受けたとしても、第一審原告と被控訴人会社との間には、民法九四条二項の適用ないし類推適用の余地はなく、被控訴人らは、第一審原告との関係では、民法一七七条の登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者とはいえない。

そして、たとえ補助参加人中野が第一審被告中村に対し本件一の登記をすることを承諾したとしても、この理は当然には覆らないというべきである。すなわち、民法九四条二項は、権利外観を作出した者に対する関係で、その権利外観を信頼して取引に入った者を保護するための規定であるから、補助参加人中野に対する関係と第一審原告に対する関係は、当然別々に判断されるべきである。

したがって、被控訴人らの抗弁は、いずれも失当である。

2  補助参加人ら

(一) 抗弁事実のうち、中山が第一審原告の代理人であったことは認め、補助参加人三松商事あるいは松島が補助参加人中野の代理人であったこと及び補助参加人三松商事あるいは松島が第一審被告中村に対し仮装の登記をすることを承諾したことは否認する。その余の認否及び主張は第一審原告に同じ。

(二) 補助参加人中野は、本件土地の売却について、不動産業者の補助参加人三松商事にその仲介を依頼したが、売買その他登記手続きなどに関して代理権を授与したことはない。現に売買契約の締結と登記手続の委任は補助参加人中野本人が自ら行うなど、補助参加人三松商事が補助参加人中野を代理して法律行為をしたことはない。

さらに、補助参加人三松商事の代表者の松島は、本件持分売買契約に関して、第一審被告中村に対し仮装の登記をすることを承諾したこともない。仮に松島が、中野から第一審原告への移転登記手続の依頼を受けた司法書士に対し、移転登記を承諾するような返事をしたとしても、それは、第一審原告の都合のよいようにしてくれとの趣旨であって、買主以外の第三者にあえて虚偽の登記するということの承諾ではない。

六  再抗弁

1  (抗弁2の(二)の(3)に対し)

本件一の登記は、前述のように中山と第一審被告中村がこれを利用して一時他から金融を得るために共謀してしたものであり、したがって、仮に中山が第一審被告中村に対し本件一の登記をしてくれと申し入れたり、右登記をすることを承諾したとしても、第一審被告中村は、中山が第一審原告を代理して本件一の登記をするにつき、その申入れ又は承諾を与える権限を有しないことを知っていた。すなわち、第一審被告中村は、中山に代理権がないことについて悪意であった。仮に知らなかったとすれば、第一審原告に確認しなかった点において過失がある。

したがって、右中山の行為について表見代理の成立する余地はない。

2  (抗弁1の(二)に対し)

第一審被告中村訴訟承継人らは、第一審被告中村が表見代理人中山の指図により本件二の登記をした旨主張するが、前項のとおり、同被告は、中山が第一審原告を代理して本件二の登記をするよう指図する権限のないことを知っていたものであるから、同様に表見代理の成立する余地はない。

七  再抗弁に対する被控訴人らの認否

再抗弁1の事実は否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因事実について判断する。

第一審原告と第一審被告中村訴訟承継人らとの間において、第一審原告が第一審被告中村を仲介人として補助参加人中野との間で本件売買契約を締結したこと、その売買契約書に第一審原告主張の記載があること、第一審原告が中山に対し、その主張の名刺の使用を許していたこと、第一審原告の主張の頃、本件土地の農地転用届が受理され、本件土地の地目が田から宅地に変更になったこと、第一審被告中村が本件一の登記を経由していること、第一審被告中村が昭和六二年三月一日死亡し、第一審被告中村訴訟承継人らが相続したことは争いがなく、第一審原告と被控訴人らとの間において、本件売買契約が締結されたこと、被控訴人らが本件二、三の登記を経由していることは争いがない。

《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる(前記のとおり一部の事実は争いがない。)。

1  補助参加人中野は、本件土地の売買を補助参加人三松商事の代表者の松島に委任し、同人は不動産業者である第一審被告中村にその話しを持ち込んだ。第一審原告は、当時、第一審原告の不動産部の肩書入りの名刺の使用を許していた中山を通じて第一審被告中村から本件土地の売買の話しを聞き、補助参加人中野と第一審原告とは、昭和五四年三月三〇日に本件売買契約を締結した。

右売買契約の際、手付金一〇〇〇万円と裏金一〇〇〇万円が支払われたが、売買契約書により、第一審原告は、農地転用許可申請のうえ中間金として二〇〇〇万円を支払い、残金は農地転用許可がされ次第支払うこと、残金の支払いにより本件土地の所有権が移転する旨の合意がされた。

その後、農地転用許可手続は進まなかったが、同年五月二一日に前記中間金二〇〇〇万円が支払わた。

2  中山及び第一審被告中村は、同年八月一〇日頃、第一審原告に無断で、資金の都合で、さしあたり本件売買契約を解除して、すでに支払済の手付金及び売買代金の合計三〇〇〇万円分に相当する本件土地の持分(当時、本件土地は仮換地中であった。)について売買契約を締結したい旨、補助参加人中野及び松島に申し入れた。これに対し、もともと本件土地の売却に伴う譲渡所得税の軽減のため売買代金を二年にわたって受領したいとの意向を有していた補助参加人中野は、これに応じることとし、同日頃、第一審原告の代理人であると信じていた中山との間で、本件売買契約の合意解除と本件持分売買契約の締結をした。その際、補助参加人中野は、中山らの要求により、前記裏金の半分の五〇〇万円を同人らに返還した。

同年八月二四日補助参加人中野による(市街化区域内にある)本件土地の農地法四条の農地転用届が受理され、同年九月一八日土地の地目は、田から宅地に変更された。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右によれば、中山は、少なくとも本件持分売買契約に関して第一審原告の表見代理人(民法一〇九条)であり第一審原告は右売買契約を是認しているものと認められるから、補助参加人中野と第一審原告は、前記のとおり本件売買契約を合意解除し、本件持分売買契約を締結したものと認められる。

そうすると、第一審原告が本件売買契約によって本件土地の所有権を取得したとの主張は前記所有権移転の約定(この約定が例文であるとはいえない。)に照らし理由がないが、本件持分売買契約によって本件土地のうち本件持分を取得したとの主張は理由がある。

二  そこで、第一審被告中村訴訟承継人ら及び被控訴人らの各抗弁について検討する。

第一審被告中村訴訟承継人らの抗弁1及び被控訴人らの抗弁2の(一)のうち、第一審被告中村が中山から本件持分を売買したように仮装して欲しいといわれ、補助参加人中野から権限を授与されたその代理人の三松商事の代表者の松島の了解のもとに、本件一の登記を受けたこと、すなわち、本件一の登記が補助参加人中野から権限を授与されたその代理人である三松商事の代表者の松島と被控訴人中村の合意によってされたことは、第一審原告と第一審被告中村訴訟承継人ら及び被控訴人らとの間で争いがない(なお、補助参加人らは、右松島の権限及びその了解について争うが、第一審原告はこれを認めるので、結局、右の事実については自白が成立したこととなる。)。

そして、《証拠省略》を総合すると次の事実が認められる(前記のとおり一部の事実は争いがない。)。

1  中山と第一審被告中村は、本件持分売買契約の締結後、残りの持分の売買契約は翌年になることがわかっていたため、それまでの間、本件持分を利用して第三者から融資を受け、これを自己の用途に使用しようと共謀し、補助参加人中野から本件持分の登記を受けるに当たり第一審原告に無断でこれを第一審被告中村名義とすることとした。

2  補助参加人中野及び松島は、昭和五四年一二月二〇日過ぎ司法書士小林秀男事務所に赴き、本件持分の売買契約書や登記委任状を作成し、事務員の齋藤滋に対し、第一審原告か第一審被告中村の指図に従って登記手続をするよう依頼して帰った。

3  第一審被告中村は、数日後、右事務所を訪れ、右齋藤に対し、第一審被告中村名義に登記するよう指図したので、齋藤は、松島に対し、第一審被告中村に登記してよいかどうかの確認を求めたところ、その了承を得たので、同月二四日本件一の登記申請手続をした。

4  第一審被告中村と中山は、同月二七日頃、本件持分を担保に融資を受けるべく、被控訴人会社との間で、本件持分を代金二六四〇万円で売り渡し、三〇〇〇万円でこれを買い戻すことができるとの売買契約を締結し、その頃右代金を受領し、被控訴人会社は、本件二の登記を受けた。

5  被控訴人会社は、右売買当時、第一審被告中村が本件持分を有しておらず、本件一の登記が仮装の登記であることを知らなかった。

6  被控訴人会社は、昭和五五年四月二三日被控訴人国本に対し、本件持分を売り渡し、同月二四日本件三の登記をした。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右によれば、第一審被告中村は、第一審原告に無断で中山と共謀のうえ、同人らのために本件一の登記をしたものであり、第一審原告の代理人中山の指図で第一審原告のために本件一の登記をしたということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、第一審被告中村訴訟承継人らの抗弁1は理由がなく、採用することができない。

次に被控訴人らの抗弁2の(一)についてみるに、前記争いのない事実及び認定の事実によれば、補助参加人中野は、本件持分を第一審原告に売却しながら、第一審被告中村の申出により、その代理人の三松商事の代表者の松島によって、本件持分権者でない第一審被告中村に対して、その登記をすることを承諾したことが認められる。

そうすると、その代理人によって仮装の登記を作り出した補助参加人中野は、民法九四条二項により、その登記を信頼して本件持分を買い受けた善意の第三者である被控訴人会社に対し、その登記の無効であることを主張することができない(被控訴人会社が抗弁2の(一)で主張する事実関係すなわち補助参加人中野と第一審原告との間の本件売買契約につき補助参加人中野と第一審被告中村との間の仮装の持分売買契約の登記をしたことと、前記認定の事実関係すなわち補助参加人中野と第一審原告との間の本件持分売買契約につき補助参加人中野と第一審被告中村との間の仮装の持分売買契約の登記をしたこととは本来の売買契約の点で異なるが、本来の売買契約と異なる仮装の持分売買契約の登記をしたこと及びこれを信頼して取引したとの点では同じであり、抗弁の主張としては同一というべきであり、仮にそうでないとしても、その主張には後者の主張をも含むものと解される。)。その結果、補助参加人中野は、売買により第一審被告中村を経由して被控訴人会社に対し本件持分を移転したのと同様の立場に立つに至り、なお、補助参加人中野は、第一審原告に対しても、すでに本件持分を売買しているから、これらの関係は、補助参加人中野を中心とした二重売買と同様の関係に立つものと解される。したがって、第一審原告と被控訴人会社の関係は、どちらが先に民法一七七条の対抗要件を具備したかによって決まることとなるところ、被控訴人会社が本件二の登記を有していることは、前記のとおり争いがないから、第一審原告は、本件持分の取得を被控訴人会社に対抗することができないというべきである。

第一審原告は、右の事実関係のもとにおいて、第一審原告は第一審被告中村の仮装の登記を作出するについて何ら関与していない(第一審原告は、中山に対し、第一審被告中村に登記することを承諾する権限を授与したこともない。)から、補助参加人中野に対する関係と第一審原告に対する関係とは別個に判断されるべきであり、第一審原告との関係では、被控訴人会社は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者には当たらない旨主張する。しかし、本件において、被控訴人会社は、第一審原告が第一審被告中村と通謀して仮装の登記をしたことにより善意の第三者として第一審原告から所有権を取得したと主張しているわけではなく、補助参加人中野が第一審被告中村と通謀して仮装の登記をしたことにより善意の第三者として補助参加人中野から第一審被告中村を経由して所有権を取得したと主張し、さらに補助参加人中野から本件持分を取得したと主張している第一審原告との間の所有権取得の優劣を主張しているのである。そうであるとすれば、被控訴人会社が第一審原告から本件持分を取得したかという観点から、第一審原告を中心として第一審原告が第一審被告中村と通謀したかどうかを問題とすべきではなく、さかのぼって、被控訴人会社が第一審被告中村を経由して補助参加人中野から本件持分を取得したかどうかという観点から、まず、補助参加人中野を中心として補助参加人中野と第一審被告中村との通謀虚偽表示に基づき被控訴人会社が第一審被告中村経由で補助参加人中野との間で本件持分を取得する取引関係を生ずるかどうかを検討し、さらに右取引と補助参加人中野、第一審原告間の取引との優劣を検討すべきであって、この観点からすれば被控訴人会社が登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者であることは明らかである。したがって、第一審原告の右主張は理由がないというべきである(もっとも、本件において、第一審被告中村への持分移転登記の仮装は、第一審原告が何ら関知しないままに、補助参加人中野と第一審原告の取引に基づく第一審原告への持分移転登記に代える意図ないし趣旨の下にされたものであるが、民法九四条二項による善意の第三者の保護は、通謀虚偽表示により作出された外観を信頼したことに対する保護であるから、その外観の作出された意図ないし趣旨が外観に表われていない以上、そのことにより善意の被控訴人会社に対する保護が左右されることはないものというべきである。)。

そうすると、被控訴人らの抗弁2の(一)は理由がある。

三  以上によれば、第一審原告の第一審被告中村訴訟承継人らに対する請求は理由があるからこれを認容すべきであるが、被控訴人らに対する請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

四  よって、これと同旨の原判決は相当であって、第一審原告及び第一審被告中村訴訟承継人らの控訴はいずれも理由がないから、これを棄却し、なお、第一審被告中村の訴訟の承継の結果、原判決の主文第一項を変更し、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 鈴木經夫 浅野正樹)

〈以下省略〉

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